Dosage
ドサージュ
サラブレッドを血統の面から判断するものにドサージュ理論がある。
ドサージュ(dosage)は薬の調合や配合という意味だ。
そこでサラブレッドの配合理論として「ドサージュ」という言葉が使われるようになった。
それではドサージュ理論を紹介しよう。 
ヴュイエのドサージュ理論

フランスのヴュイエ大佐(Lt.Col.J.J.Vuillier)が発表した理論である。
1920年に出版した著書「Les Croisemens Rationnels dans la Race Pure」に
シェフ・ド・ラス種牡馬について彼は説明している。
 ●影響力

彼の方法は12代までの血統表を作るところから始まる。
12代の血統表を元に下の表のように影響力を決めた。
例えばある祖先Aが4代目と5代目にあらわれた場合、
祖先Aの影響力は256+128=384となる。

代目 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12
影響力 2048 1024 512 256 128 64 32 16 8 4 2 1

彼は多数のサラブレッドの血統を12代までさかのぼって調べた。
そして優秀な馬達の血統を比べてみると、
ある特定の祖先達の影響力の構成が似通ったものであることを発見した。 

●16頭の影響力のある祖先

彼は12代血統表に出て来る祖先の中から影響力のある祖先を選んだ。
それは15頭の種牡馬と1頭の繁殖牝馬だった。
その16頭の祖先の影響力を一流馬数百頭について調べて平均を出した。
それがヴュイエの標準ドサージュ(standard dosage)である。
この時点で種牡馬の中に1頭だけ
繁殖牝馬のPocahontasをリストに加えたヴュイエの洞察力はすばらしい。
Pcocahontasの血はBMSラインを通じて現代の馬にもかなり影響を与えているからだ。 
●ヴュイエの標準ドサージュ(standard dosage)  

Bird Catcher 288 Voltaire 186 Stockwell 340 Isonomy 280
Touchstone 351 Pantaloon 140 Newminster 295 Hampton 260
Melbourne 184 Gladiator 95 St.Simon 420 Hermit 235
Pocahontas 313 Bay Middleton 125 Galopin 405 Bend Or 210  

標準ドサージュ値に近づくような配合をすれば、
いい馬が生まれやすいと言う理論がヴュイエのドサージュ方式である。
この理論はアガ・カーンの牧場で採用された。

スティーブン・ローマンの
ドサージュ理論
スティーブン・ローマン博士(Dr.Steven A.Roman)は
ヴィイエとヴァロラの理論をさらに改良して現代のドサージュ理論を開発した。 
●影響力
ヴュイエのドサージュ理論では12代の血統表を必要としたが、
ローマン博士は4代血統表だけで計算する。影響力は下の表の通りである。
代目 1 2 3 4
影響力 16 8 4 2
●ドサージュのタイプ
博士は祖先になる種牡馬を5つのタイプとその中間型に分けた。
タイプ 説明
Brilliant 瞬発力、短距離のスピードに優れている。スプリンター。
Intermediate 一定の速いスピードを持続出来る。マイラー。
Classic クラシックレースや大レースに強い。
Solid 安定した力を出せる。2400m以上の長距離に強い。
Professional 3000m以上に強いステイヤー。
中間型  上の5つのタイプから2つを選んだ中間のタイプ
●シェフ・ド・ラス(Chef-de-race)
種牡馬 そして影響力の強い種牡馬をシェフ・ド・ラス(Chef-de-race)種牡馬として選んだ。
ド・ラス(de race)は「純血種の」という意味のフランス語である。
シェフ(Chef)は「頭、長、首領」などの意味があるので、
シェフ・ド・ラスは「サラブレッドのボス」という意味になる。
「種牡馬の殿堂入り」みたいなもので、優秀な種牡馬が選ばれている。
4代血統表の中にこれらの種牡馬がある場合、
そのタイプ別に影響力を加算する方法でドサージュ指数を求めた。
このローマン博士のドサージュ指数は血統をあまり知らない人にとっても解りやすい。
数字を見ればある程度の血統的な予測が可能になる。
親子ドサージュ理論 安田明生が自作の血統ソフト「お馬の親子」に
スティーブン・ローマンのドサージュ理論のドサージュ指数を
自動計算する機能を追加してみた。
そしてコンピュータで何頭もの競走馬のドサージュ指数を出してみた。
ところが、日本の馬のドサージュ・プロフィールは
スタミナを表わすSolid、Professionalの値がほとんどゼロになってしまった。
なぜなら博士のシェフ・ド・ラス種牡馬は欧米の競馬を対象にしたもので、
日本の馬に影響力を与える種牡馬が
4代血統表には5代目、6代目に出て来ることが多かったからである。 
日本の競馬にドサージュ指数を応用するには指数の改良が必要だった。
1つめは血統表の7代目まで調べてSolid、Professionalの値を求める事だった。
7代まで調べることでスタミナの情報を得る事が出来るようになった。
ゴルトンの法則 ドサージュ理論の元になったゴルトンの法則
 ヴュイエのドサージュ理論スティーブン・ローマンのドサージュ理論に共通した考え方がある。
「両親は子供に対して平均的に2分の1の影響力を持つ」というものだ。
これを「ゴルトンの法則」と呼ぶ。
この法則は遺伝学に基づいた法則ではない。
X染色体の遺伝などはこの法則に従わない。
ドサージュ理論の限界がここにある。
しかし、馬のDNAを調べて遺伝情報を我々が得られない限り
この法則に頼るのが賢明な事は確かである。
遺伝学的にはドサージュ理論は正確無比ではないが、
ドサージュ理論から出た結果はある程度競走馬の血統を知る目安として使える。